介護事業者の財務諸表の公表義務について
2023年11月06日
ミネルバ税理士法人では、訪問看護事業を営んでいるお客様の担当者で定期的に座談会を開催し、お客様からご相談を受けた内容の情報共有を行っています。
今回の座談会では、お客様から財務諸表の公表義務についてのご相談を頂いたと情報共有がありました。
そのため、今回は、次の介護保険制度の改正が実施される2024年から、すべての介護事業者に課せられる予定になっている財務諸表の公表義務についてお話しさせていただきます。
・背景
背景には、介護業界が直面している深刻な人材不足があります。介護業界では、介護職の負担増加と低い給与水準が問題視されており、このままの状態では介護職の離職率が上昇し、人手不足が一層深刻化するという恐れが高まっていました。この悪循環を断ち切るため、介護事業所の経営状況の公表が提案されました。
今回の提案は、経営状況の透明性を高めることが目的で「事業所への補助」や「職員の処遇改善」など、介護サービスの充実を目指す各種施策の精度向上につなげる狙いがあります。
・公表の内容と対象
今までも社会福祉法人や障害福祉事業所には財務諸表の提出及び公表が義務付けられていましたが、今後は介護サービスを行う医療法人や営利法人(株式会社など)にも財務諸表の公表が義務付けられることとなります。公表が求められる財務諸表は通常の決算書そのものではなく、介護サービスごとの損益計算書を作成する必要があります。
公表の具体的な方法についてはまだ確立されておりません。介護事業所が通常行っている都道府県への報告に財務諸表の提出が追加される可能性や、新しいデータベースへの報告になる可能性が考えられます。方法が確立した際には、詳細な情報を改めてお知らせさせていただきます。
・情報の精度向上
公表される財務諸表は、厚生労働省が定める「会計の区分」に従った内容でなければなりません。このため、複数の拠点や併設サービスがある場合、拠点ごとやサービスごとに損益計算書を提出する必要があり、情報の精度向上が求められます。また、給与や経費の細かな分類も行われるため、事業者はより詳細な情報提供が必要です。
この厚生労働省が定める「会計の区分」は税理士が通常行っている税務会計とは別物のため、今後は税理士に任せきりにするのではなく、連携して財務諸表を作成していくことが求められます。
・課題
この公表が実施されることにより、賃金などの数字が公になり、一部で職員の不満や短期的な人材流出のリスクが高まるかもしれません。そのため、各施設は数字だけでなく、働きやすい職場環境の整備にも注力する必要があります。
今回は、次の介護保険制度の改正が実施される2024年から、すべての介護事業者に課せられる予定になっている財務諸表の公表義務について紹介しました。お読みいただきありがとうございました。